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免疫システムから見た『がん免疫療法』の違いと比較検討

がん免疫治療(Cancer Immunotherapy)について、真剣に学ばれておられる患者さんが増えているようですので、がん免役治療の体系だった説明にトライしてみようと思います。

先ず前提として、人体に備わった『免疫システム』の中で癌に対する免疫について少しおさらいしておきましょう。最新の研究では、人体の『免疫システム』は大きくは次の3種類に分類されるそうです。

一つ目は「①自然免疫システム」といいます。この自然免疫の代表に、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)という殺傷力のある細胞があります。ところがNK細胞に特異性がないという問題があります。つまり癌細胞を探したり追いかけるという性質を持たないということです。体内で偶然に出会った癌細胞だけを殺します。つまり偶然の出会いに期待するしかないのが弱点です。このNK細胞がいくら増えても、上手く隠れている癌細胞を見つけ出すことはしないので、どうしても治療としての限界があるのです。

二つ目は「②液性免疫システム」といいます。ウィルスなどの感染に対して体内に抗体というものを作る仕組みのことを指します。一度抗体が出来ると、体はその病気にかかりにくくなるという仕組みです。つまり、もしがんに特異的な抗体が出来ても、癌細胞を殺すというシステムではないので、積極的な治療効果がなかなか期待できないというのが問題点とされています。もう少し詳しく述べると、抗原提示細胞(代表が樹状細胞です)が抗原を提示する際に、細胞表面のMHCという受容体のクラス2経由で抗原提示すると、B細胞がこれに反応して抗体を作る活動が活発化します。MHCという受容体のクラス1経由で抗原提示すると、T細胞がこれに反応して癌細胞を殺す活動が活発化します。

三つ目は「③細胞性免疫システム」と言います。これは、細胞傷害性T細胞が、がんの特異性を認識し、癌細胞を攻撃するという仕組みのことを指します。こちらが殺しのメカニズムになりますので、積極的な治療効果が期待できます。

 

それでは、現在の日本で数多く目にする「癌免疫療法」は、一体どれに当てはまるのかを見てみましょう。

がん免疫療法の見分け方

(1)まず、丸山ワクチンとか蓮見ワクチンと言われるものがあります。これは、免疫賦活剤と言われるもので、上記①の自然免疫システムを活性化させようという狙いはあるものの、癌細胞に対する働きははっきりとせず、丸山ワクチンについては特に日本緩和医療学会のガイドラインでも治療効果はないと明記されています(クリックすると関連記事が表示されます)。但し、体の調子は良くなるので、これを提供している医療機関はまだ存在しています。

(2)次に、活性化リンパ球療法ANK療法などに近い名称のものがあります。これも、上記①の自然免疫システムの担い手であるNK細胞を増やして提供しようというものですが、これは上記自然免疫システムでご説明したように特異的に癌を殺すものではなく、NK細胞と癌細胞の偶然の出会いに頼るという限界があります。しかしNK細胞を大量に体に入れるという療法で一定の効果が出る患者さんもいらっしゃるようです。これらの療法を受けた直後、患者さんの体の調子は良くなりるようですので、これらを提供してる医療機関は多いようです。一部の大学病院での臨床研究として受けられるものがありますが、これは抗がん剤治療よりは圧倒的に副作用が少ないので、QOL改善などを狙いとしているというものも多いようです。

(3)次に、がんペプチドワクチン療法というものがあります。これは、上記③の細胞免疫システムを稼働させることを狙ったもので、ある癌特有の抗原をワクチンとして投与するものです。これは、がん特異性を狙うという方向性がはっきりしているので、今まで日本でもNHKをはじめ多くのマスコミで特集されるなど取り上げられてきました。抗原を大量生産してワクチン化を狙うということで、製薬会社としてもビジネスとして考えやすい性格ということもあり、日本でも海外でも多くの大規模治験が展開されているので、大学病院で受けられるがん免疫治療というと、このタイプが圧倒的に多いということになっています。しかし、正式な治験の結果として治療効果が認められないという結果が続出しています。これは何故かというと、おそらく上記③の細胞免疫システムを狙っているとはされるものの、実際には上記②の液性免疫システムを活性化してしまっているからだと大野先生はおっしゃっています。

(4)次に、本人の樹状細胞(Dendritic Cell)を使った治療があります。この樹状細胞を、あるがん抗原ペプチドと一緒に育てたり、あるいは癌細胞と一緒に育てたり(Co-Culture)するという手法が使われています。これは上記③の細胞免疫システムを狙った治療法であり、いままでの治療法と比較すると癌を特異的に攻撃しようとしている治療デザインなので、より進歩的だと言えます。しかしながら、ターゲットとしているのが単独や複数のがん抗原(Antigen)であることにより、がん細胞が性質を変異させると(例えば、あるがん抗原が狙われていることを察知するとそのがん抗原を細胞表面から引っ込めるなど)効果がなくなってしまうという問題に対処できないという限界があると、大野典也先生は考えました。

(5)そこで、これら既存の癌免疫療法の限界を克服する為に大野典也先生とドナルド・キーフ先生は、がん細胞と樹状細胞をフュージョン(融合)させたフュージョン細胞をワクチンとして使うことで、がん細胞の全てのDNA情報を樹状細胞に取り込んでしまうことが出来、がん細胞の全ての抗原情報を細胞障害性T細胞に教育することが出来るというコンセプトを考えついた訳です。更に、この融合細胞ワクチンにIL-12という補助薬(アジュバント)を組合せて投与するという治療法が、フュージョン細胞治療であり、上記③の細胞免疫システムの活性化を狙う治療法としては、最も効果が期待できるものであるということが言えるのです。

もちろん、癌は個人で異なる特徴があるので、上記の(1)~(4)の治療が非常に効果を上げる場合があることを否定するものではありません。しかしながら、科学的に考えた時に、理論的に一番可能性があるのが、この第5世代癌免疫療法であるという訳です。

更に詳しくお知りになりたい方は、大野典也著の講談社現代新書「DNA医学の最先端(自分の細胞で病気を治す)」をお読みください。また、科学雑誌「ニュートン」の2014年1月号にも記事が掲載されていますのでご参照ください。

 

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