免疫治療薬(チェックポイント阻害剤)の出現で「がん免疫療法」の正しい理解が促されてきた

実は免疫細胞の細胞傷害性T細胞が癌細胞を殺していたことが、広く認められてきた:

皆さんは、がん治療として「がん免疫療法」が日本の医学会でも最近認められて来たということを聞いたことがありませんか?実は、その通りなのですが、内容が少々複雑なので、ここで改めて解説を試みたいと思います。

直接的な理由としては、日本語で「チェックポイント阻害剤」、英語ではCheckpoint Inhibitorという抗体治療薬が、2011年以降アメリカで認可されてきて、これが昨年日本でも認可となったという事実が引き金となっています。

このチェックポイント阻害剤というのは、『がん免疫』の研究から出てきたものです。癌細胞の表面には受容体という外部との情報交換を行う部分があるのですが、この中のPDL-1という受容体が、細胞傷害性T細胞のPD-1という受容体と結合することによって、細胞傷害性T細胞の攻撃を受けないようにしているということが分かってきたのです。そこで、癌細胞のPDL-1受容体にくっつく抗体を作ることで細胞傷害性T細胞の攻撃を止めることがないようにしてみようということで開発されてきたのが、抗PD-1抗体(日本で販売されているものは、一般名:ニボルマブ、販売名:オプジーボ/小野薬品工業、ブリストルマイヤーズ)です。当初は、アメリカで多い悪性黒色腫に対する販売認可が下り、アメリカでは非小細胞肺がんでも認可となっています。日本でも、悪性黒色腫に対する認可が下りており、肺がんについても申請中ということになっています。小野薬品工業の販売認可は、厚生労働省としては異例の36例による認可となった結果、2年間の臨床例については全件報告となっているということから、大手病院のみに対しての販売となっています。しかし、あまりにも注目度が高いので、海外から個人輸入の形で仕入れて処方している自由診療クリニックが出てきているという側面も見受けられます。大学病院などですと、このPD-1抗体を他のがん腫に臨床研究として使うことが可能ですので、今全国で、そのような使われ方がされています。

この抗PD-1抗体は、全ての人に有効という訳ではなく、およそ3割の人に対して有効であるという感じなのですが、有効である場合には、ほぼ寛解に達する人が多く出ているところから、大注目を浴びる結果となっています。アメリカでは、メルクとブリストルマイヤーズが共に認可を取ったことから、『がん免疫』研究へ巨額の研究費が流れ込んでおり、この分野に参入するがん治療開発研究者も非常に増えているのです。

この癌細胞など細胞の受容体を取り巻く研究を、癌細胞の微小環境(Micro Environment)に関する研究と言います。抗PD-1抗体は、巧妙な癌細胞の仕業で細胞傷害性T細胞の本来の攻撃を止めるディフェンスの仕組を崩すという作用を発揮します。そこで、このチェックポイント阻害剤が、癌治療として有効となっているのは、細胞傷害性T細胞が本来の癌細胞を殺すという役目を果たすことが出来るようになったということなのです。これは正に、「がん免疫療法」の中でも一部の治療法が目指すところです。

ところが、正直言って、この部分までよく理解している臨床医は、まだ少ないと言えます。チェックポイント阻害剤自体が、免疫治療薬であって、がんを直接攻撃している程度にしか理解していない医師が多い段階かもしれません。

それでも、ようやく癌は、免疫システムが殺しているのだということを認めざるを得ないような状況になってきましたので、大病院やがん専門病院で、いままでは「免疫治療」という言葉を聞いただけで拒否反応を示していればよかった医師も、知らないではすまなくなってきたということなのです。

チェックポイント阻害剤が、癌細胞のディフェンスを崩す役割であるということは、次には攻撃側のオフェンスが重要になります。そこで、細胞傷害性T細胞に癌の特異的特徴を教えるがんワクチンが注目される番が来ている訳です。

皆様に、是非ご理解頂きたいのは、世界のこの潮流の中で当然のごとく注目されている免疫システムは、細胞傷害性T細胞であるということです。この細胞傷害性T細胞こそが、癌細胞を特異的に(つまり癌細胞を癌細胞と分かって)攻撃するものだからです。

つまり、自然免疫という分類に入るNK細胞でも、αγT細胞でも、またそれら自然免疫のリンパ球を区別なく総称する活性化リンパ球などでもないということなのです。NK細胞が、癌免疫治療の主人公であるかのように説明し、細胞傷害性T細胞に対してNK細胞の方が癌細胞の殺傷能力が高いかのごとく言っている人達がいますが、これは大間違いなのです。どうして世界の研究動向を追わないのでしょうか。どうして30年前で時間が止まっているのでしょうか。本当に気を付けてください。この自然免疫レベルで進化の止まっている免疫療法の人達が、抗PD-1抗体などに便乗して、免疫治療の時代だとか言っている人がいます。海外では、決してそうなっていません。あくまでも、主役は細胞傷害性T細胞なのです。

今現在ある「がんワクチン」の中では、『フュージョン細胞ワクチン』が一番合理的で良いはずなのですが、何故多くの研究者でさえほとんどそれに気づいていないのは、がん細胞の免疫回避、Immuno Escape、Down Regulationの問題が、細胞傷害性T細胞が癌細胞を攻撃する際に乗り越えなければならない大きな課題であるという問題意識にまで到達していないからです。

おそらくは、世界の『がん免疫』研究者が、あと2年もすると、この問題にたどり着き、多くの研究者が問題に取り組み、その結果として、フュージョン細胞ワクチンのすばらしさに気づくことになるであろうと予測しています。

説明べたの話にお付き合い頂きまして、ありがとうございました。しかし、この辺りを勉強すれば、第4の治療としてのがん免疫療法を強い味方にすることが出来るかもしれません。

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