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免疫システム解説本による癌免疫療法の理解

人体の免疫システムを利用した癌治療というのが、大枠での癌免疫療法の定義だとすると、「どの免疫システム(細胞)」を「どのように使おう」とするのかというのがその各論ですね。もし、これを市販の本で自習してみるとどうなるか?

そこで、「免疫の意味論」(多田富雄著。東京大学名誉教授の大先生です。1993年4月発行。)と「新しい自然免疫学-免疫システムの真の主役」(坂野上淳著。大阪大学免疫学フロンティア研究センター准教授。大阪大学の審良静男研究室監修。初版2010年12月発行ですが、買ってきたのは第2判で2015年3月25日発行ですから新しいですね。)という免疫システムを解説している本2冊を買ってきました。

(1)「免疫の意味論」から。

癌に対する自然免疫(P204)

癌細胞やウイルス感染細胞に、正常の人の新鮮なリンパ球を加えると、一部のリンパ球が癌細胞に取り付いて次々に殺していくのが見られる。一度癌にかかって免疫になった人でなくとも、癌細胞を見分け殺すような細胞をもともと持っているのである。この細胞は、T細胞でもB細胞でもない。「自然」に存在しているので、ナチュラルキラー細胞(natural killer cell, NK細胞)と呼ばれる。

~中略~

人間でも、日常一定の頻度で突然変異が起こり癌細胞が発生していると考えられるが、主としてNK細胞によって発育する前に潰されているらしい。

~中略~

NK細胞が、癌細胞のどういう特徴を認識しているのかはまだわかっていない。しかし正常の細胞とは微妙に異なった部分を見分けて、細胞膜に穴を開けるような物質(パーフォリンなど)を吹き出して殺してしまう。ちなみにNK細胞の機能は、青年期に最も高く、四十歳代で半減し、高齢者では著しく低い。発癌の年齢分布とちょうど逆になっている。

癌免疫におけるキラー

NK細胞による自然免疫が、発癌の初期段階での監視に重要な役割を果たしていることは認めるとして、免疫の本命であるT細胞やB細胞はどうしているのであろうか。じっさい私たちが見る癌という病気は、NK細胞の監視の眼を逃れて、発育が始まってしまった癌である。

なるほど、この多田先生は、免疫システムの主役は、T細胞やB細胞だとはっきりおっしゃっていますね。すくなくともNK細胞などの自然免疫システムではないということ。

(2)「新しい自然免疫学-免疫システムの真の主役」を見てみましょう。

キラーT細胞の役割(P77)

さて抗原提示細胞(マクロファージなど)が持っている自身の目印はMHCクラスIIという分子ですが、”MHCクラスI”はないのか?という疑問がわいてきます。じつは、MHCクラスI分子(MHC-classI)はあらゆる細胞の上にあるのです。それどころか、MHCクラスI分子は大切な働きをしています。

ウィルスに感染した細胞は、死ぬ間際に異物の断片を情報としてMHCクラスIの上に提示します。この情報を最初に受け取るのはヘルパーT細胞ですが、実際に戦うのはまた別のT細胞です。なぜならヘルパーT細胞はB細胞に抗原の情報を渡して抗体を作らせますが、抗体は細胞の中に入れないのです。そこでウィルスから体を守るには、ウィルスに感染した細胞ごと殺すしかありません。それを行うのが、キラーT細胞と呼ばれるもうひとつのT細胞です。キラーT細胞はヘルパーT細胞を通じ「私を殺してください」という細胞のメッセージを受け取ります。キラーT細胞は細胞傷害物質であるパーフォリンやグランザイムといった分子を放出したり、標的細胞の自殺(アポトーシス)遺伝子を刺激したりして攻撃します。

このように、実際に敵に感染した細胞を殺すのはキラーT細胞ですが、キラーT細胞が増殖するよう指令をするのはヘルパーT細胞です。その際、ヘルパーT細胞はサイトカインの一種であるインターロイキン2(IL-2)という分子を放出します。

あれれ?ここの部分の説明は間違っています。キラーT細胞である細胞傷害性T細胞は、抗原提示細胞のMHCクラスIに載った癌抗原を認識することが出来ますので、ヘルパーT細胞を全て通じてという説明は違うのです。これはWikipediaでも調べられます。

一般向けに書かれたふたつの本を眺めましたが、「免疫の意味論」は世の中の流れを少なくとも当時は十分取り入れて書かれていることが分かります。一方、新しい方の「新しい自然免疫学-免疫システムの真の主役」では、獲得免疫システムの主役であるはずのキラーT細胞の説明からして間違っており、その上で自然免疫についての新発見を述べているのですが、果たして自然免疫を押そうとするあまり、獲得免疫については余り分かっていらっしゃらないのかなと思わせる点がなんとも不安です。

ことほど左様に、免疫システムの話は、誰の話を聞くかによって全然違う場合があるというのが現実かもしれません。

それにしても、自然免疫の免疫細胞をいくら増やしても、それが「癌治療」としてメインであるはずはないというところまでは、素人でもたどりつけると思いますので、是非皆様がんばってください。私共も、少しでもお手伝いできるように情報発信したていければと思います。

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